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2012.09.04 Tue
南涼♀

南雲先生と女子高生涼野ちゃん
先天性女体化

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キスをされた。


私の家があるということは高確率でその隣にも家があることを表す。
南雲晴矢というのはその左側に住む教育者だ。

この春私は高校生になり、南雲はそれまでいた高校を離任して新しい学校の数学教師になった。
そしてそれぞれの足が向かうのは同じ一つの施設であり南雲と私は教師と生徒になってしまったのだ。

「敬語を使わなくちゃならないね」

それを知った時に漏らした言葉に「こうなる前から使え馬鹿。俺ぁ年上だぞ」とデコピン付きで返した南雲が教壇につき一度目の授業を始める。
お隣さんという関係にありながら教師と生徒とは難しい関係になったものだ。
幼馴染とでも言うのだろうか。私は小さい頃から南雲に遊んでもらっていた身で、彼を一番近い言葉で表現するなら私は「兄」を選ぶだろう。
「南雲先生」と「晴矢お兄さん」ではやはり後者だな。納得した私と少し長い自己紹介を終えた南雲の目が合った。途端に細まる金色の瞳にギクリとする。
聞いていなかったのがバレたようだ。

私と南雲がお隣さんという近しい立場にいることはそう時間のかからぬ内に広まった。と、言ってもせいぜいクラス内であろう。それを知ったところで得をする人間などほとんどいないのだから。
隠すことでもなければ隠し通すことの難しいことでもあった。実際私の家に遊びに来るような昔からの友人達は南雲の存在を知っていた。あんな赤い髪、そりゃあ一度見れば忘れられないだろう。
「あれ、あんたのお隣さんじゃん?赤毛の数学お兄さん」そう友人の一人に言われたこともまだ記憶に新しい。
それらのことから、そこそこ広い数学教室へ南雲を訪ねに行く私というのもさして珍しい光景ではなくなった。
入学したての冬服がいつの間にか夏服になり、出した腕が風を敏感に感じるようになった頃。何度目かわからぬノックをした。

「なんだ、また課題期限の先延ばしか」

ムスりと眉間に皺を作った南雲が呆れたように振り返る。

「おとなりさんだから、言いやすいだろって。皆言うんだ。南雲先生、絡みやすいけど課題の話はしづらいんだと」
「敬語使え敬語ォ。お前良いように使われすぎだぞ。あーこんな面倒くせぇガッコ来んじゃなかったよ」
「私もそう思いますけど。課題の先延ばしなんて、言いづらいのは私だって同じなのに」
「だってのに何でそう毎回断らずにやってくるかね」
「変に突っぱねて敵を作りこれからの学校生活を脅かすのは賢い選択ではないと思ったからです」
「と、本音は?」
「私も課題やってないんだ」

半笑いで気まずそうに顔を背ける私にぶつけられる盛大な溜息。南雲先生はお疲れのようです。体を傾けて「お願い」の意を込めた瞳を南雲のそれと合わせる。
「駄目だったって、言った方がいい?」
寄った眉が戻ることはなく、また一つ溜息をついて「いいよ」と零す

「そもそも一日二日提出が遅れたところで俺はそんなに困らねーんだよ。困るのは生徒本人だからな」
「身に染みるお言葉です」
「そう毎回見逃さねぇぞ。甘えすぎだお前ら」

デコピンを一つくらって不満気な声が出た。悪いのは私なのだろうか。
「お前もやってねぇんだろ課題」

「次にやってねぇなんて言ったら、わかってるな?」

課題を提出できなかった時の怒った教師ほど怖いものはないだろう。少なくとも今は。
分が悪いとっとと退散しよう。そう踵を返した途端、耳が音を拾った。

「衣替えだな。そろそろ」

俺この学校の夏服好きだわ。南雲は窓に目を向けそれだけ言った。

私が三年生になった頃、何度目か知らぬ言葉をクラスメイトから投げられる。
二年前の夏の終わり以降、私は数学の課題を提出できなかったことは一度もなかった。今日、この日までは。

「・・・・課題?」

言われるまで忘れていた。そういえばあったのだ。数学の課題が。意地悪くもプリントが3枚。
もちろんすぐには終わらない。私の肩は少し可哀想なくらいに下がった。
提出は放課後。三年生限定夏休み講座の三日目終了と同時に提出となっている。私の耳には三日目昼休み終了のチャイムが笑うのが聞こえていた。

「南雲先生入りますよ」

ノックの返事を待たずに扉を開ければ赤い頭がのそりと動いた。
去年の中頃から持ち込まれたクッションに顔を埋めて寝ていたらしい不良教師の背後に立つ。
居眠り中の晴矢お兄さん。そう耳元で囁きながら背骨を小指でなぞると「ぎゃっ」と情けなく飛び上がる。
不機嫌そうな南雲に用を問われ、言いづらそうに視線をあちこちに向けて唸る。早く言わないともっと機嫌を悪くしてしまう。
言わなければ、と南雲に目を合わせると相手のそれとは交わらなかった。
無表情に近い、何かを惜しむような顔の当人の視線を独占しているのはどうやら私の胴体のようで、自分の視線も釣られてしまった。
南雲は時々、今のような顔で私を凝視することがあった。まだ三回目なので正しいかはわからないが、夏以外で私はその顔を見たことがない。

「何の用だって」
「あ、いや。えっと」

ギョロリとでも音がしそうな動きで急に合った視線に口が上手く回らない。
ああいけない、イラついている。慌てて用件を伝えると南雲は心底嫌そうな顔をした。

「いい加減にしろよお前ら」
「すみません」
「延ばさねぇぞ」
「一日でいいから」
「あ?珍しい。粘るじゃん」
「いや、一日あれば終わるんだ」

南雲の眉がピクリと動く。
「まさかお前もやってねぇのか」面倒臭そうに言われた台詞にご名答と力無く返せばいつもの溜息が吐かれる。
普段は優秀である私が一度くらいの失敗で咎められることは無いだろうというのは信用度の低い甘えだ。まずそんなことはないだろう。
言ったよな。南雲が静かに口を開いた。

「次、やってねぇなんて言ったら。って」

先程と同じ、夏の顔に少しねちっこさを混ぜたような顔の南雲に腕を捕まれる。
驚いて足元がフラついた私を南雲が力いっぱい引き寄せた。もちろん私の体はその力に従い自らの主導権を失う。
瞬間、私の唇に触れたのは南雲先生のそれだったように思えた。

「なん、え・・・っ」

何で。何で何で。どうして。何だ今の。
キス。キスを、されたようだった。
妙に潤っていたその感触にまさかこいつ涎たらして寝てたんじゃないだろうかと明後日の方向に意識が飛ぶ。その一瞬で背中に衝撃が走った。
蹴倒された椅子が大きな音をたて、机に背中を押し付けられた私の視界を南雲が占領する。
捕まれた左腕と腰に感じる男の手の存在に一瞬で背筋が冷えた。

「な、ぐ、」
「・・・あー」

腰にあった南雲の左手が私の胸元に添えられる。

「着納めだなぁ、夏服。」

ボタンが外される音を聞いた。

8月13日午前午後日曜日38分
私の夏服が死んでしまいました

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