南涼
野生的涼野
一応死ネタ注意
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「もうじきに雨が降るよ。」
振り返って彼は言った。
風介は変な奴だ。とは今更言うことではないが。
シックスセンス?とか。そういったものに長けているようで。あいつのわけのわからない言動はこれに関係していると思う。
その内の一つと言ってはなんだが、風介が「雨が降るよ」と言った後には必ず雨が降った。
どんなに晴れていても、どんなに降水確率が低くても、だ。
「テレビというのはあてにならないね」そう楽しそうに言うから機嫌がいいのだろう。先程も風介は雨予報をして見事に当てた。
ただもう少し早く言ってくれればいいのだが、直前に言うものだから傘も用意できやしない。役に立つかといわれればそうでもない特技だ。
何故そんなに的確にわかるのかと以前訊ねてみたのだが、雲の様子とか空気の匂いとか、あとは勘らしい。そんな曖昧な。
風介の野生っぷりにはまいるなとしょうもないことを考えながら隣を歩く風介を盗み見た。
雨も少し冷たくなってきた、秋の始まる帰り道だった。
雨が降っていた。雨が降っている。今日は一日、ずっと。テレビの中で笑顔の女がそう言っていた。お前の予報なんて風介程じゃないのによだなんて、馬鹿馬鹿しいと思わないか。
目の前に墓石がある。雨に濡れて光る新品だ。真新しい輝きというのは見ていて楽しいねと言ったのは風介だ。お前ならこれもそう思うか。
でかい石を切って削ってこんな形にして。人間は一体何を求めてるんだろうな。こんなもんに何の意味があるんだろうな。意味があるのはこの中身だよな風介。な。
墓石に触れた手が濡れる。何故雨が降るのだろう。
風介はもういないのに。
もう雨が降るよと知らせてくれる風介はいないのに。
それなのにどうして雨が降るんだ。
雨が降る前には風介が必ず雨が降ると言ったんだ。
風介が言わないのに雨が降るはずがないんだ。
ならば何故雨が降っている?
何故俺は濡れている?
何故墓石が光っている?
何故風介はここにいない?
何故
何故雨が降るのだろう。
風介はもういないのに。