基涼
ジェネシス計画以前
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「最後だから」
そう言ってヒロトが私の腰に手を回す。向かい合った状態でベッドに座り込み一体どれだけの時間が経ったのか。
私からは何のアクションも起こさないまま今日という最後の日が終わりに近づいていく。
目の前にヒロトの顔があった。私は瞬きすら返さない。
「ねぇ、最後だから」
薄く笑うその顔が更に近づく。
先程からずっと最後最後と繰り返すその口を若干鬱陶しく思いながら細く息を吐いた。
唇が触れそうなほど近づいた時、億劫ではあるが口を開き声を発する
「きっかけが無ければ何もしようとしない。君はこの状況を喜んでいる。」
このまま溶けて混ざってしまうのではないだろうか。そう思うほど近くにあった瞳が軽く見開かれた
こいつがこういう顔をする時は大抵自分の考えに自分で気づいていない。
そういうところにイラつくんだ。少し。
こんな最低のきっかけでようやく動き始める君に、少しどころではなくかなり、イラつく。
最後だからと言い訳をして私に触れて一人で満足して全てを無かったことにしようとする。
この男はどれだけ自分に酔えば気が済むのだろう
「今日で最後だから、ヒロトとして」
「馬鹿馬鹿しいよ。」
「もう12時になっちゃうね」
「馬鹿馬鹿しい。」
あと何秒残っているのか時計を確認する時間も惜しい。とでも考えているのだろうか
少し、それでも緩く。急ぐように口付けをされ。浸るように抱きしめられる。
この男はどれだけ私の都合を無視すれば気が済むのだろう
自分の下に敷かれているベッドシーツをぐしゃぐしゃになるまで握り締めて、私とヒロトは昨日で言うところの明日を迎えた。
日付を跨いだことに気づいているのかいないのか
ヒロトは私を離さなかった。
今日で、
最後。
(明日からは、人間ですら)