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2011.05.05 Thu
南涼
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「お前唇ガッサガサだな」
ポケットにつっこんだままのリップクリームをいじりながら南雲は言った。
それは基山から渡されたもので、生憎と南雲の唇はそこまで乾燥してはいなかったのだが、差し出されたそれはどうやら彼のお気に入りのようで、かなりの笑顔で押し付けられた。
南雲は心の中で「女子か。」と呟いた。
なんとなしにそれを口に持っていき塗ろうとする。瞬間鼻につく臭いは最近よく見る匂いつきリップのような気のきいたものではなく、味気なくも強烈な薬用リップのそれだった。
確かに基山から女子のような可愛らしい匂いがしても反応に困るが。これもこれでなんだかなぁと、それを口に当てて横に滑らせた。
リップを塗りながら、先程声をかけた涼野に目をやればたいして反応もなく、こちらを見てもいない。完璧にシカトである。
「なぁ、おい、ガサガサ」
そう呼べば眉間に皺を寄せながらこちらを向いた。
そんな顔をされてしまってはこちらの気持ちも萎んでしまう。
まぁリップクリームを塗っていて、相手の唇が乾燥しているとなればやることは一つであるが。
(ゲロ甘ぇ・・・)
それは自分たちが実践するには甘すぎる。
(女子か・・・)先程基山に入れたツッコミを自分にも入れる。
気づけばすぐ目の前に涼野の顔があった。
それほど甘くも無い匂いを間に挟んで互いに見つめ合う。
その間唇に感じたカサつきを思い出しながら、今はもう離れた顔を見る。
「悪かったな。ガサガサで。」
やっぱりリップクリームはやめようと思った。
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