バンガゼ
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視界が捻じ曲がり黄金のそれに覆われる。
私が一体何をしたというのか。
何気ない動作でそれを行ったバーンを見上げる。といっても視界は大分遮られているのだが。
バーンの手に持たれたそれには可愛らしい字で「Honey」と書いてあった。
何を思ったかこの男はいきなり人の頭の上で蜂蜜の瓶を逆さにしたのだ。もちろん蓋は開いたまま。
蜂蜜をかけられた私は状況がよく飲み込めずただバーンを見上げる。
バーンは蜂蜜の瓶を手にした時と何ら変わりない無表情で私を見下ろす。とてもいい気分になれたものではない。
「君は何がしたいんだい」
一先ず問うてみればバーンはゆっくりと首を傾ける。
先程よりも少し細められた目がなんだか扇情的だと思いながら待つが言葉はない。
まさか特に理由もないのに私は頭から蜂蜜をかけられたのだろうか。
それはさすがに理不尽ではないか。
少し前まで紅茶にいれられていたそれを少し手にとって口に含む。
甘くて苦い、好きな味ではないなと思った。
髪が少しごわごわする。シャワーを止めながら髪を撫でるが不愉快な感触は落ちない。
なんてことをしてくれるんだと心の中でバーンを責める。
部屋に戻ってみればバーンは悠然と紅茶を啜っていた。腹が立つ。
「君にかけられた蜂蜜、落ちないよ」
「そうか。災難だな」
「全くね。それで?結局どうなんだい」
「あん?」
「私がいきなり頭っから蜂蜜をかけられた理由だよ」
バーンの隣に腰を下ろしながらもう一度聞く。
大して表情も変えずバーンが手に持ったカップを傾ける。
ただ、見たくなったんだ。それだけ言ってカップはテーブルの上へ置かれた。
何をと問う前にバーンが口を開く。吐かれる息は微かに甘い。アッサムの香りがした。
「このなぁ、蜂蜜の色。似てんだよ」
「・・・何にだい」
「俺の目」
「ふん・・・?言われてみればそうかもね」
「だから見たくなったんだよ」
俺の色を含んだお前がどんな感じなのかな。
原因は妙な征服欲とでもいうのだろうか。悪い気はしない。
バーンが私の髪に触れ「ごわごわしてる」と漏らした。腹が立つ。誰のお陰だと思っているのか。
そのままその手がごわごわの髪をかきあげる。いつの間にかグッと縮まっていた距離に腰が引けたが後ろのベッドに阻まれた。
バーンの舌が私の額に触れる。今日はいつも以上に欲望で動いているなこいつは。ぬる、と額に伝わる感触がくすぐったい。
シャワーを浴びたばかりなんだが、という言葉は飲み込んだ。